
#FFFFFF

色褪せて
絵を買いに彼の家を訪れた時のことだった。
黄色い花の絵が四方の壁中にびっしりと敷き詰められた部屋の片隅で、男はじっとうずくまっていた。
歩く時の癖で、どうしても足元を見てしまうもんだから、さっきまでずっとくすんだ赤茶色の歩道をみていた。
そのせいだろうか。黄色の空間に目が眩んでしまった。
ゴッホの真似事かい?と尋ねてみた。
男はか細い声で、シキジキ様に会ってしまったのだと言った。
陽の光で透過してしまいそうなほど繊細で、まるでガラス玉のような青い目を覆いかぶさる、重厚感のある皮膚の塊で型取られたまぶたを持ち上げることに精一杯だと言わんばかりの力無い表情で彼は答えた。
「俺はこれから色を失って行くんだよ。」
そう言って、自分の腕を切ってみせると、黄色の液体が流れ出した。
「シキジキ様に会ったんだ。俺はもう色を食われてしまった。赤色のチューブをひねってるはずなのに、出てくる色はなぜか黄色。ワインを注いでも黄色、俺の血も黄色、俺が他人を切り裂いた時も黄色い血が流れ出したんだ。」
続け様に彼はそう言った。
彼はまだ気づいてはいなかったが、彼の血の色がいつの間にか白くなっているのを 彼はまだ気づいてはいなかったが、彼の血の色がいつの間にか白くなっているのをみて、私は怖くなってその場を去ることにした。
じゃあまた、絵が描けたら教えてくれ。
そう声をかけても彼は何も言わずに、呆然と去る私を見ていた。
ドアを閉め、早足で立ち去る。 くすんだ赤茶色の歩道を眺めながら、彼の家から遠ざかりたかった。
だけど、気になって仕方がない。どうしても振り向かずにはいられなくなって、彼の家を見てみる。
何も変わらず閉じたままの扉。
何事も起きない。
ばかばかしい、なんてわざとらしく口にしながら、灰色の歩道を眺めながら、私は歩き始める。
抑えきれないほど早くなる動悸を抑えつけながら、足いっぱいに力を込めて、知らぬ間に走っていた。
いつもとは違う速度で流れていく街並みに混乱したのか、息がきれ始めて脳の酸素が足りなくなったのか、だんだん頭の中で考え事ができなくなってきたときに、走るのをやめた。
歩道の色は灰色じゃなかった。
わかりきったことだった。
だけど振り向いてしまった。さも当たり前のように。
シキジキ様が立っていた。
制作裏話
「ミッドサマーみたいな作品がみたい!」
これを読んでいる多くの皆様同様に、私自身もそんなことを漠然と思っていながら生活をしておりました。
幸いなことに、物を書いて皆様にご覧いただく機会をいただいておりますので、自分で描いてみようかなと意気揚々と取り組んでみたのが、こちらの作品です。
ミッドサマーといえば、圧倒的な色彩、映像の美しさで描かれているホラー映画であり、まだ着目されていないような土着信仰をモチーフにしている作品となります。
そこで、黄色に狂気的な執着をしていた芸術家と、日本の地方のインターネットにも情報のない禁忌や神様を、モチーフに色食様という神様をでっちあげた作品となります。
タイトルの「#FFFFFF」は白色のカラーコードを示し、色が失われていくということをストレートに表現しております。
デザイン上のシキジキ様の背景の数字は、シキジキ語ということで架空の言語を作ってみたものなのですが、言語を作るという作業は非常に楽しいので、架空の言語を作ることが好きな方がいれば、ぜひ一緒にシキジキ語を構築しましょう。
【デザイン背景のシキジキ語翻訳】
この世界を色で見るな。
空は決して青くはないし、木々は緑などではない。
お前たちの勝手な識別で、この美しい世界を汚すことなど許されない。
この世界を意味で描くな。
体は決して黄色くないし、心は断じて赤ではない。
神を、芸術を殺したのであれば、あとは朽ち果てる存在であるくせに。
まだ描くことを、色を重ねることをやめないのであれば、俺はお前たちの全てを奪い去る。
全てを白にする。
#舞台設定
西洋的な街並みと、日本的な習わしの入り混じった世界
無機質な芸術家の部屋
#キャラクター
色彩を愛した芸術家
お人好しな美術商
#シーン・アクション
顔から色を食べている、シキジキ様に見つかった
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