The Pitfalls of Popular Will
おとぎ話の戦争
もう、この戦争で勝つことはできないかもしれない。
自分の中で湧き出てきた思考に驚いた。
兵器、兵士の数、数名の捕虜、どれをとっても敵国のそれらには遠く及ばない。
行き詰まったときに、一息を入れるための中庭がある。
思えば戦争が始まってから、ここを訪れたことはなかった。
パーリユスの花が一面に咲き誇っている。
この世の中のどんなものよりも美しい白色をしているこの花は、我が国の特産物であり、信仰の対象ともなっている。
この花は、食した生物を媒介にして毒の花粉を散布する。
ヤギが食してしまったが故に、花粉はヤギの体に適応し、空気中を漂い、国中のヤギを絶滅させ、ヤギの体内からパーリユスの花が咲き乱れていたことがある。
古くからこの国に咲いていた花だったが、このような惨劇は、過去に一度たりとも事例がなかった。
それは毒の効力が、種ではなく群れの範囲にとどまっていたからだった。
群れの個体たちが持つ小さな遺伝子の共有点に反応していたのだ。
しかし人間の手によって交配を重ねて、育てやすくなったヤギたちは、限りなく広範囲に同様の群れとなっており過去の惨事が起きていたことがわかった。
美しくも力を持っているこの花が、私は好きだ。
そして、この花の力を恐れるよりも先に、花の力に対する理解の声を上げられる我が国民を誇らしく、そしてどんな手を使っても守りたい。
そうか。まだ手があった。
そこから実験を重ね、完成したバクダンを敵国の上空へと放つ。
翌日、敵国から降伏の宣言が提示された。
国民の誰しもが敗北を悟り、自らの死に方を決めていたような状況から、勝利へと導いた国王が英雄としてもてはやされるのも束の間、敵国の調査へと向かっていた士官から、敵国の領土に広がる無数の死体とパーリユスの花の情景が語られると、世論は一変した。
王様は、悪逆非道の悪帝として、処刑された。
国民の罪悪感からなのか、敵国にバクダンを落としたのと同じように。
自国の上空から、突き落とされた。
制作裏話
窮地に立たされた王様と国民、状況を一変できる可能性を持った国の特産品、未来を考えて総意で取った選択、その先にある悲しく無責任な結末。
2nd Collectionの中で1番の大作と言っても過言では無い作品です。
タイトルは「民意の落とし穴」という意味で、民主主義的な状況の問題を表しています。
状況によって顔を変え、ある側面で物事を断定し、責任は持たないが強い意見を発し、権利と立場を死守するためなら手段を選ばない。
そんな大衆を比喩したような作品になっています。
政治批判や攻撃的表現をしたいのではなく、客観的に色んな状況を俯瞰した時、規模の大小関わらずこういうことってよく起きてるよな程度なので、あしからず。
デザインはシンプルに王様の結末のシーンを描いていますが、ちょっと違った2つの視点の意味が込められています。
1つは物語を読めば分かる通り、王様に「責任を全うしろ!」といった痛烈な自国からの指差しと、敵国の惨状を表した地面から伸びるパーリユスの花が咲いた腕。
落とされる王様。
もう1つは、上下の腕共に自国の大衆を表していて、「この選択はどうか」という提案と、結末を暗示する手招きのような下の腕。「これしかない!これにしろ!」と選択を迫る鋭い民意を表す上の腕。
絶望的な状況で、1つの可能性と予測できる凄惨な結末の板挟みに合う王様。
鋭い選択を迫る民は、王様の立場になったら、なにを思い、どう考え、どんな決断をするのでしょうか。
似たような状況に出くわした時、そんなことをふと考えたりします。
解釈によっては他の視点も感じ取れるかもしれません。
ぜひ、あなたの解釈で作品を楽しんでください。
#舞台設定
ファンタジーの世界観
中世ヨーロッパ的な建造物や建築様式と、WW2くらいの戦闘技術。思想レベルは2023年
#キャラクター設定
30代ぐらいの男性
#アクション
戦闘機から体一つで飛び降りる王様