Circuitry of Hearts
晴天の霹靂
「〜つまり膨大なデータを取り込み処理させるのではなく、人間の肉体が成長と共に五感から情報を取り入れていくのと同じように学習させることで、複雑な思考を…」
人間と相違ない思考が可能なAIの開発のために、手間と時間のかかる実験に科学者は情熱を注いだ。
"テラ" と名付けられたAIを、実験室ではなく科学者の自宅に迎え入れた。
最初は動き回ることができなかった。
だから、語りかけ、抱きしめて情報を与えた。
ひと月すぎた頃、四足歩行のための機構が着くと、テラは自ら学習を行い動きはじめた。
何かを掴んだり、座ってみたり、四足歩行の機構のまま寄りかかって直立をしたり。
語るための機構は技術が追いついておらず実装が遅れていたが、それを差し置いても十分すぎるほど実験は順調であった。
一年が過ぎ、テラに二足歩行の機構を付け替えた頃、科学者に "アル" という名前の娘が生まれた。
人間の子供は変数だらけで、手間と時間がかかる子育ては想像を絶した。
最初は動き回ることはできないからか、泣き叫び助けを求める。
ひと月もすぎると、情報を獲得しようと手を伸ばしては腕の中から抜け落ちそうになる。
四足歩行になればあっちこっちへと歯止めは聞かない。
そして自らの行いの結果、何かが起きて泣き叫び、助けを求める。何かに寄りかかって直立すると、注目を求められる。見られていないと泣き叫び、助けを求める。
そんなアルに、テラは姉のように振る舞っていた。泣き叫ぶアルのもとに誰よりも先に向かっては、顔と顔を近づけてなだめていた。犬のような不思議な仕草だが、語ることはできない代わりに動作によるコミュニケーションが豊富になっていったのだと思う。
そしてまた一年が過ぎ、アルが自ら自由に二足で歩けるようになった頃、語るための機構が完成した。
機構を付けたのにもかかわらず、テラは声を出すことができずにいた。
久しぶりの実験室だからか、見知らぬ大人たちがいるからか、実験の結果を案じる親の表情に、戸惑っているのか。
科学者はまた優しく彼を抱きしめ、自分のために声を使えばいいと語った。
家に帰ると、アルが泣いていた。
家族に置き去りにされてしまったと思ったのだろうか。
誰よりも先に、テラがアルのもとに向かう。いつものように、顔と顔を近づけて。
生まれて初めて声を使った。
「なんで、お前ばっかり」
制作裏話
タイトルは「心の電子回路」という意味です。
タイトルとデザイン共に、機能として技術的に叶わなかった感情が初めて灯った瞬間を表現しています。
人の顔の中で、最も感情が反映され、かつ感情を誤魔化せないパーツは「目」だと考えています。
悲しみ、怒り、嫉妬、驚きなど、テラが感じた複雑な感情を唯一読み取れるパーツは、人間と同じく目だろうなと思って、この物語と最重要テーマの感情を「ロボットの目」だけで表現できないか、試行錯誤してみました。
目の周りの青い線は、言葉通り回路を表していて、感情が灯った時に流れたであろう電流を表現しています。
「目が血走る」という言葉から、人間の血管を電流が流れる回路に置き換えてみました。
遠くから見ると一見怖く感じるのですが、近くで見てみると、悲しみ、切なさ、怒り、嫉妬、驚きの全ての感情を読み取れるちょうど良い表情になってて、結構気に入っています。
ぜひアップにしたり近くで見てみたりして、テラの表情を楽しんでみてください。
感情のコントロールって本当に難しいです。感情があるから人は衝突しますが、感情があるから人だと言えると思います。
怒鳴って直接的に感情を伝えるということは、テラもまだ幼いということです。
良くあるAI映画物のような制御の効かないロボットになってしまうのではなく、アルと一緒に成長しながら上手くコントロールできるようになると良いですね。
#舞台設定
現代もしくは近未来のアメリカ的な建築様式の家の中。昼下がり。
#キャラクター設定
人間と同じように育てられたAIと純粋な赤ちゃん
#アクション
AIが、赤子に対して、嫉妬、怒り、寂しさが入り混じった複雑な感情から怒鳴りつける