
THIRST

愛への渇望と、本能の末。
わたしのお母さんは、わたしをずっと一人の人間として対等に接してくれた。
わたしができないことは助けてくれて、お母さんにできないことは助けを求めてくれた。写真を撮るときだって、わたしを撮らないで一緒に写真に写ったり、お互いに撮り合ったり。
わたしが泣いていれば一緒に泣いてくれて、わたしが間違っていたらお母さんの考え方を話してくれた。
それにどんなことでも包み隠さず話してくれた。
お母さんが人の気持ちを汲み取るのが苦手で、いつもいじめられてしまっていたこと。
どんな人と恋愛をしていつもうまくいかなくて傷ついたこと。
他人が怖くてたまらなくて人のいない場所に逃げてきてしまったこと。
どうしてもお母さんになりたくてたまらなかったこと。
わたしのお父さんの話だけはしてくれなかったけど、どれだけ仲が良くても秘密なんてあって当たり前だし、なによりお父さんのことなんて気にする必要のないくらい十分な愛情をもらった。
わたしのお母さんはヤギにも対等に接していた。
毎朝かならず挨拶をして、天気の話や、最近の出来事、わたしと一緒に出かけた場所の話も、悲しかったことも不安も全部話していた。ご飯も一緒に食べたし、お風呂も一緒に入ったし、夜寝るときも一緒だった。
だから私もヤギが大好きになった。
お母さんと同じように、動物と人間を区別することはなかった。
そんなお母さんが大好き。
だけど、一つだけずっと言えない秘密がある。
わたしは、人間として生まれてほしかった。
制作裏話
動物としての根源的な欲求と本能、それらがもたらしたある少女の運命を描いた作品です。
見るからに不穏な空気を漂わせ、常識とされる概念とは異質な存在として認識されるよう、この作品を見た人にフィルターがかかるようなデザインにしました。
社会的な動物である人間の心の安定は、繁殖や種の保存といった生物的な本能を満たす行動よりも、愛という感情の充足が最も重要な手段になると考えています。
その愛の満たし方は人それぞれであり、あなたにとっての常識とは異なる方法もあるかもしれない。
みんな違ってみんな良いとは果たして本当にそうなのか。
そう咀嚼できるのは、自分の理解の範疇に及ぶものだけで、そこから外れたものをすんなりと受け入れられる聖人君子のような人はいないのではないか。
世の中の事象に対して、人の意見は必ず少数と多数に別れるが、物事の善し悪しは誰のどんな基準で決まるのか。
倫理と常識とは、誰の何で成り立っているのか。
そんなことを考えながら作りました。
人間社会の中では、少数派は異分子として捉えられ、「普通」とされる中心からは追い出されてしまいます。少女が大好きなお母さんもきっとそうだったのでしょう。
愛の満たし方が少し違ったのかもしれない。
お母さんのお父さんとお母さんもそうだったのかもしれない。
少女はそんなことになんとなく気付きながら、同じような運命を辿っていくのかもしれない。
この作品で扱った愛と本能というテーマには関係なく、社会にマイノリティ側を強いられてしまう人たちは、自分の運命を憐れむも避けられない彼女の気持ちがよく分かるかもしれませんね。
#舞台設定
農村の村からさらに人里離れている一軒家
#キャラクター設定
友達みたいなお母さんと、お母さんが大好きな娘
#アクション
いつも同じ岩場で自分の運命を憐れんでしまう
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