
omnipotence paradox

なんでも一つだけ願いが叶ったら。
秒針の音だけが響く部屋の静寂に、黒いインクの妖精は語りかける。
「一生に一度の願いを書き記せ」と。
聡明な若者は、しばらく考え込んだのちに、妖精に尋ねる。
「願いが叶ったという結果ではなく、どのように叶うのかという過程が重要なのだ。だから、他人の願いがどうなったのか教えてくれ」と。
それから妖精は語り出す。
巨万の富を望んだら、社会主義の精神が廃れた。
世界平和を望んだら、ウラニウムを生み出した。
死んだキリストの復活を望んだら、死後復活の逸話が刻まれた。
不老不死を望んだものは、姿形が消え去って、世界の至る所で神様と呼ばれている。
もっともっとわかりやすく、形あるものや役割を願ったものは、願いが叶ってから一年も経たないうちに、願う前より悲しそうな顔をしているか、他の願いを渇望して追い求めながら死んだ。
ありがとうと伝えると、若者はじっと目を閉じて考え続けた。
どのように願うか、いくつもの仮説を立てているのか、手にペンを握っていることすら忘れてしまっているように、じっと動かなくなった。
永遠とも思えるような時間が過ぎていく。
いつの間にか秒針の音が鳴り止み、部屋の中には静寂が訪れていた。
黒いインクの妖精は語りかける。
「」
制作裏話
タイトルのomnipotence paradoxは、全能の逆説という意味で、どんな事でも実現できる全能な存在が、誰も読めない文字を作ったとして、それを自分自身が読めなかったら全能とは言えないよねっていう論理学的なやつです。
デザインとしては、とても聡明な人間が、長い長い時をかけて、何か奇跡的な問いを生み出したのか、それとも何も書けなかったのか。という曖昧な状態を表現しました。
元々は、背中からの構図で考えていたのですが、満足したようにも、無念に終わったようにもとれる表情の演技させたいという自我を発揮しました。
#舞台設定
アメリカの田舎のでっかい家。子供部屋として作られた部屋の中
#キャラクター設定
結果では、過程を重んじることができる老人(20代ぐらい?)
#アクション
老人が一冊のノートに向き合っている。
何かを書こうとしているのか、書き終わったのか、わからない。
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