
Cut me!

切っても、切っても。
「どうしてあなたは、容姿を変えないの?」
本当に悪意のない単純な疑問だった。
魔法が扱えるようになってから、人々はみな当たり前のように自分自身に魔法をかけて、理想の容姿を手に入れていた。当然私も同じだった。
だから、枝毛が絡まり合った髪の毛に重たい瞼、そしてそばかすまみれの顔の少女を見たとき、不意にそんな言葉が出てしまった。
そばかすまみれの少女は語る。
「見た目を整える程度の想像できる幸せなんてすぐに廃れるんだよ。」
そして私の長く艶やかな髪をみて、ほくそ笑んだ。
じゃあどんな幸せを求めればいいのか。と聞こうとしてきたのを察したのか、木の幹にもたれかかって目を閉じてしまった。
言われた言葉より、魔法でもなんでもない、私がずっと大切にしてきたこの髪の毛を笑われたことが悲しかった。それに選んだ道に後悔なんてないはずだけど、そばかすの彼女の話にひどく心を乱される。
頭の中で考えててもどうしようもなくなってきた時に、私は自分の髪の毛を切ってみた。
とても大事なものがなくなってしまうような感覚がして、慌てて魔法で髪を生やした。
元の髪の毛と寸分違わないように見えるし、違いもわからないけど、なんだか自分のものじゃないように見えた。
もう二度と戻れないことを知った。
もう自分のものではない。
今度は、生やした髪の毛を切ってみた。
だけどもう、どこからが元の髪の毛かわからなくなってしまった。
切っても切っても、もう自分の髪じゃない。
どこまで切っても、もう自分じゃない。
制作裏話
なんで髪の毛を切ったんだろう。
文章の中では、なんだか自分ではコントロールできないような感情に飲み込まれて、不可抗力かのように髪の毛を切ってしまっているけど、多分頭はもっと冷静で、切っても何も変わらないことはわかってるような気がしました。
ただ、自分の中でふと現れた「髪の毛を切る」という選択肢がどうしても大きくなり始めて、そのヒステリックなシチュエーションに酔いしれていたりもして、切っちゃったんだと思います。
デザインとしては、ヒステリックな自分をどこか冷静にみてる感じがデザインとして表現できた気がします。
タイトルを決める際には、「髪の毛を切る」選択肢を、痛々しさへの皮肉になりすぎないように、大好きな不思議の国のアリスからお力を借り、「Drink me!」からオマージュして「Cut Me!」にしました。
#舞台設定
70年代/魔法の世界
#キャラクター設定
13~15才くらいの女の子、思春期。
#アクション
自分の長い髪の毛を切る