
SINGING IN THE ICE

おなかがすいたな
とある氷の大地に、血の足跡が連なっていた。
長い長い距離を歩んでいるその足跡の先には、大きな大きな氷柱が聳えていた。
その中に少年の死体が見つかった。
彼は、先住民族の人種でもなければ、探検隊のような装いでも年齢でもなく、もっと遠くおおよそこの大地にはたどりつくことができないような島国の服装をしていた。
研究者等は彼を丁寧に保存するために、彼を納めた大きな大きな氷柱をそのまま持ち帰り、彼を覆う分厚い氷を溶かし始めると、氷の中に閉じ込められていた歌が流れ出したと言う。
以下は、その歌の歌詞である。
氷の水面を tap tap tap
帰路と違わぬ足取りで tap tap tap
気づけば水平線 囲まれて tap tap tap
帰路がどこだからわからない
おなかがすいたな
おなかがすいたな
おなかがすいたな
おなかがすいたな
海は相変わらず静かで
夕陽が水面でtap tap tap
空がどこだかわらない
おなかがすいたな
おなかがすいたな
おなかがすいたな
おなかがすいたな
tap tap tap
ひび割れた氷の海の中
ひとりぼっちの鯨が歌う
言葉の額縁の外のこと
地球の大きな嘘のこと
魚影の夢見た漂流者
境界線の向こう側
こっちの水は甘いぞ
見えすいた小さな嘘に歩み寄る
おなかがすいたな
おなかがすいたな
おなかがすいたな tap tap tap
おなかがすいたな
おなかがすいたな
おなかがすいたな
おなかがすいたな
海は相変わらず 静かで
制作裏話
「歌を作りたい」
そんな思いが作品の出発点でした。
どんなテーマにしようか。
恋愛、失恋、友達、家族、戦争、平和、社会、自分、生きること、神様への捧げ物。
人生をかけてでも表現したいテーマを持った歌を聞いてると、奮い立ったり、癒されたり、悲しんだり、喜んだりと色んな感情を芽生えさせてくれますよね。
ただ、人類史上類をみないストレス社会の現代では、歌の力ではもうどうしようもないような、何もかもがどうでもよくなるような状況ってありますよね。
そんな絶望的な状況をテーマに設定しました。
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少し話が逸れます。
映画を見てる最中。
主人公が置かれている状況、もし自分だったらどうしよう?と思うことありますよね。
もし、無人島に一人置き去りにされたら。
もし、海のど真ん中に置き去りにされてしまったら。
私は、映画の主人公たちと同じように、どんな過酷であっても歯を食いしばって生きようと努力することはできないんじゃないかなと思ってました。
ただ、舌を噛みちぎることもできないとも思います。
なんとなく、生きながらえるふりをしながら、緩やかに命が尽きていくのを待つことくらいしか、できないんだろうな。
という思いが作品の着想でした。
ただ、弱々しい人間であったとしても、生きてる瞬間って美しいですよね。
マッチ売りの少女が、雪の中マッチを得る姿って美しいですよね。
もうどうしようもない状況下で、か細く生きるふりをしている、朧げな人間の美しさを賛美するような歌詞と、歌をテーマにした作品を作ってみました。
#舞台設定
氷に覆われた海(北極みたいに、地面がない場所のイメージ)
#キャラクター
痩せ細った少年
#シーン・アクション
どこまでも水平線の続く凍りついた海の上を裸足であるいている
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