
Ask Me Again

鏡の国から、こんにちは
友達との放課後、潰れかけた商店街にあるアンティーク家具屋にふらっと立ち寄った。
そこで見つけたのは、大きな手鏡だった。
やけに気になって手に取り、ひっくり返すと、裏には錆びた文字で「Hello from Mirror World」と彫られていた。
ふざけ半分で動画を回しながら、「こんにちは」と呼びかけた。
すると、鏡に映る“自分“が、わずかに遅れて口を動かした。
「……こんにちは。ずっと見てたよ。」
友達と大ウケして、その動画をSNSに上げたら、すぐにバズった。
「何か喋ってる!」「AIか?」とコメントが溢れた。
それから俺たちは、放課後になると学校でその鏡を取り出して遊ぶようになった。
教室の隅で笑いながら「今日は寒いね」と話しかけると、
向こうも同じ調子で返してくる。
「うん、でも君たちはあったかそうだね。」
まるで、もう一人の自分と話しているようだった。
ある日の放課後。
友達が笑いながら言った。
「なあ、“あれ“に名前、聞いてみようぜ。」
俺は鏡を覗き込み、少し茶化すように言った。
「お前は誰だ?」
沈黙。
少し間をおいて、もう一度。
「お前は誰だ?」
鏡に映る自分は動かない。
「……あれ? お前は誰だ?」
「おい、お前は、誰?」
「お前、誰だ?」
「お前は誰だ?」
「お前は誰だ?」
「お前は──誰だ!」
──八回目の声が、教室の中でやけに響いた。
鏡の中の“俺”が笑っていた。
目は動かず、口だけがゆっくりと動き出す。
「……僕は君だよ。」
…
「僕は君だよ。」
「僕は君だよ。」
「僕は君だよ。」
「僕は君だよ。」
「僕は君だよ。」
「僕は君だよ。」
「僕は君だよ。」
その声が、教室に反響し続けた。
その時、友達が低く呟いた。
「……なあ、こいつ……」
次の瞬間、鏡の中の“俺”が、
内側からガンッ──ガンッ──ガンッ!
と叩き始めた。
ヒビが走り──パリン。
鏡が、内側から完全に割れた。
破片は外に飛び散らず、内側だけに弾けた。
そして“そいつ“の姿は消え、鏡には真っ暗な闇が映っていた。
息を呑む教室。
誰も言葉を発せないまま、時間が少し止まる。
その時、鏡の縁を、内側から何かが掴んだ。
白い手。
続いて肩。
ゆっくりと、そいつが這い上がってくる。
顔は見えない。
そいつの手は鏡から飛び出し、
鏡の上から髪が垂れ落ちる。
体は下にあるのに、頭だけが上からずるりと落ちてきて、顔がぬっと這い出してきた。
目は黒くくぼみ、
顔の形が俺のものから、少しずつ崩れていく。
「やばいって!!!」
友達が咄嗟に鏡を奪い、床に叩きつけた。
──バリン。
鏡は割れた。
しばらくして、友達と顔を見合わせた。
「……なんなんだよ、今の。」
鏡の残骸を見下ろしながら、二人で教室を飛び出した。
しばらくは今日の出来事に怯えていたが、家に帰るとお母さんが夕食の準備をしていて、
妹はソファでくつろぎながらテレビを見ていた。
家には平穏と日常があり、少しずつ心が落ち着いていった。
ご飯を食べ、家族と他愛もない会話をし、宿題を終え、
いつものようにくつろいでいるうちに、今日の出来事は過ぎた記憶になりかけていた。
──23時。そろそろ寝るかと思い立ち、お風呂に入った。
週末の予定を考えながら湯船を出て、髪を乾かそうと洗面所に立つ。
ふと、鏡を見ると──そこに、いた。
濡れた髪の自分の後ろで、
逆さまの“そいつ“が、ゆっくりと顔を上げた。
「……こんにちは。」
制作裏話
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